プロがボーカルの悩みを解決します Q99:私は、軽音でボーカルをやっているのですが、大きな声が出せず、楽器の演奏の音に負けて、自分の声がほとんど聞こえなくなってしまうので、悩んでます。メンバーからは、お腹から声を出せばと言われるのですが、お腹に力を入れても声の大きさは変わりません。腹式呼吸の練習はしています。楽器に負けない大きな声を出す方法と、お腹から声を出す方法をおしえて下さい。(18歳・女性・高校生)

こんにちは。ご相談ありがとうございます。

スタジオなどでバンド練習をするときに一番大事なことは、主役であるボーカリストが自分の声をしっかり聴けていることです。

自分の声が聴こえない場合、何らかの原因があるはずですから、それを見つけて改善しなければなりません。

原因は色々ありますが、大きく2つに分けられると思います。一つめは、演奏の音自体が大きすぎるということ。

アンプの音量などバックの演奏の音量が大きいと、ボーカルがどんなに声量があっても、まともに自分の声が聴こえません。ちなみに音を聴くことを「モニターする」というので、ここからはモニターで統一しますね。

アマチュアがよくやってしまう間違いが、ドラムの音に合わせてアンプの音量を決めてしまうこと。狭いスタジオの中だと、ドラムの音は思った以上に大きな音になります。

それに合わせて全体の音量を決めてしまうと、間違いなく音が大きくなりすぎます。場合によっては、音が飽和状態になって、何を演奏しているのかまったく分からないような状態になってしまいます。これだと練習になりませんね。

演奏の音量は、ボーカルに合わせて下さい。マイクをPAに繋いで、ボーカルが実際の声量で歌いながら少しずつフェーダー(前後に動かすツマミのこと)を上げていきます。

ボーカルの声量にもよりますが、ある一定の音量に達すると音が回ってハウリングを起こします。それだと大きすぎるので、ハウリングしないちょっと手前で調整します。

そして次にバンドの音量を決めますが、特にギターの音量は思ったよりも小さめで良いと思います。というのは、スピーカーの向きによって聴こえ方が全く違ってくるからです。

スタジオに入ってチェックしてもらうと分かりますが、PAスピーカーは大抵、部屋の上のほうに設置されているはずです。これはボーカルの耳の高さに合わせるためです。

これに対して、ギターアンプは大抵床に置かれていますから、スピーカーが足元を向いています。このままだとあまり聴こえないので、ついつい音を上げてしまうのです。

そこでギターアンプは必ず斜めに(ギタリストの耳の方向にスピーカーが向くように)セッティングして下さい。くれぐれも置いてあったままで使わないように。

こうすることで音量をあまり上げなくても、ギターの音をしっかり聴くことができます。もし練習でギタリストがそのようにしていなかったら教えてあげて下さいね。

それからPAスピーカーの向きも大事です。基本はボーカルの正面に来るようにすれば大丈夫ですが、部屋に2つ以上PAスピーカーがある場合、ボーカルの真後ろに来ないようにして下さい。

マイクには指向性といって音を拾う範囲が決まっています。基本的にマイクの正面ですので、真後ろにスピーカーがあると、スピーカーからの音もマイクで拾ってしまいます。

そうすると音が回って、音量を上げなくてもハウリングを起こします。やたらハウるなと思ったら、スピーカーの位置を疑って下さい。

複数のスピーカーがあったら、一つはボーカル、もう一つはドラム(もっとあればギター・ベース)のほうに向けておけば良いでしょう。

バンド全体の音量が決まったら、最後にもう一度ボーカルの微調整です。どうしてもバンドの音もマイクで拾ってしまうので、最初に決めた音量だとハウリングを起こしやすくなるからです。

だいたいこのような流れで音量決めをしていけば、音が大きすぎて歌が聴こえないということは、まずなくなると思います。

2つめは、質問者さんもおっしゃるようにボーカルの声量自体の問題です。PAやスピーカーで調整するにしても、あまりに声量がないと、さすがに歌が聴こえるようにするのは難しいです。

声量を出すには、いわゆる「お腹から声を出す」必要があります。お腹から声を出す方法についてはこのスペースではすべて書ききれませんので、きちんと学びたいのであれば、ウタレンやボイストレーナーの先生に習ってみて下さい。

ここでは考え方をご説明します。お腹から声を出すには腹式呼吸を使いなさいと良く言われますね。たしかにこれは間違っていません。

でも、おそらく質問者さんもそうだと思いますが、腹式呼吸をたくさん練習しているのに、お腹から声を出す感じがつかめないというアマチュアの方は非常に多いです。

腹式呼吸は非常に大事です。でもそれだけだとお腹から声を出すのは難しい場合があります。その大きな理由が「お腹から声を出す」という「言葉」によるものです。

「お腹から」「声を出す」と書くと、なんとなくお腹から声が出てくるんじゃないかと思ってしまいますよね。でも実際にはお腹からは声そのものは出てきません。

お腹から出てくるのは声ではなく「息」です。もっと言えば、息が出るのはお腹ではなく「肺」です。人間の構造上、お腹に息が入るなんてことはないのです。

あくまでも肺の空気を外に出すだけ。ではなぜ「お腹から」というのかというと、腹式呼吸を使って横隔膜を押し下げることで、肺が縦に大きく広がりたくさんの空気が入ります。

横隔膜が押し下がると内臓が押し出されてお腹が膨らみ、まるでお腹に空気が入ったような感じなります。そして肺の空気を声帯に通すことで、「声」になります。

ここで大事なことは、お腹から出すのは「声」ではなく、「息」だということ。声は出すものではなく、勝手に「出るもの」である、と考えて下さい。これはとても大切なことです。

つまり、自分が意識するのは「息」だけでいいのです。それが分かっていないと、腹式呼吸をいくら練習しても、「じゃあ腹式呼吸を使って、どうやって声を出すの?」という理由が理解できません。

多くの生徒さんを見てきて、本当に多いです。はっきり言うと腹式呼吸だけを練習しても、歌に使えるようにはなりません。(ごく一部の才能のある人は別です)

このことが分かって、呼吸と発声の関係、さらには共鳴の関係が分かって実際に出来るようになると、驚くほど太くて伸びやかで大きな声が楽に出せるようになります。

長くなってしまいましたが、ぜひ参考に練習をしてみて下さい。もし本格的に上達を目指すなら、信頼の出来るボイストレーニングを受けてみると良いと思います。

バンドの練習も頑張って下さいね。ありがとうございました。


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