一口にレコーディングスタジオと言っても、設備や広さなどに応じて様々です。機材などの設備が整っていれば、高音質の録音が可能になりますし、スタジオの数や広さに余裕があれば、多様なスタイルの録音にも対応できます。当然、スタジオ代は高くなりますので、目的に合ったスタジオを探さないとなりません。
◆料金体系について
レコーディングスタジオはたいてい、1時間あたり●●円、または1日あたり●●円というシステムになっています。1日あたりと言っても24時間ではなく、たいていは10時間くらいに設定されていることが多いようです。その日のスタジオを借り切ることを「ロックアウト」といいます。
アマチュアユースのスタジオであれば、1時間5000円、ロックアウト5万円あたりが相場でしょうか。もちろんスタジオによってもっと安いところもあります。値段は設備や広さ、立地によって設定されているはずですから、安いスタジオはそれなりの機材と考えてよいでしょう。(安いから悪いという意味ではありません)
メジャープロが使うようなスタジオですと、1時間2万円、ロックアウト20万円くらいの価格が多いですね。1曲にかかる時間を考えると、メジャーCDの制作にはかなりのスタジオ代がかかっているのです。
レコーディングする曲数やメンバー編成、録音する形態から必要時間を算出して、スケジュールを立てましょう。
◆高いスタジオは何が違うの?
値段が高いということは、相応の設備費と人件費がかかっているということです。
まずスタジオが広く(ブースがたくさんある等)、機材が整っていると当然値段も高くなります。
防音設備というのは非常に高価な工事が必要です。しっかり防音をすればするほど、どんどん経費がかかります。ドラムを思いっきり叩いても全く音漏れのしないような遮音性の高い防音工事を施せば、何千万何億もかかるのです(広さにもよりますが)。ブースが増えればそれだけ壁の数が増えるので、費用もかかります。
さらに音をクリアに録るために、部屋の音の反射具合も細かく計算して設計します。
次に機材ですが、プロ仕様のスタジオだと、コンソール(ミキサー)だけで何千万円もします。最近はハードディスクレコーディング(ProToolsなど)が主流になってきましたので、レコーダーは非常に安価になりましたが、音質を左右するマイクプリアンプやAD/DAなどは非常に高価です。
マイクプリアンプとは、マイクで拾った音をレコーダー(ミキサー)に行くまでの中継となる機材です。このプリアンプの性能で音質を大きく変わります。
AD/DAとは、デジタル信号とアナログ信号を変換する機材です。これも音質に大きく影響します。マイクで拾った音(アナログ信号)をデジタルレコーダーに記録するには、デジタル信号に変換する必要があります。その精度によって機材の値段が変わってきます。同じデジタルレコーダーなのにアマチュア機とプロ機の値段が大きく違うのはこういった部分によるのですね。
それから、音質を調整するエフェクター類や、常備しているマイクなどもプロ用は非常に高価です。
高価な機材にはそれなりに理由があるわけで、やはり原音に忠実な良い音で録音しやすいことは間違いありません。
最後に人件費ですが、エンジニアのクオリティでも値段は大きく変わります。優秀なエンジニアはクライアント(お客さん)の要求に忠実で、要求以上の結果をもたらしてくれたります。どんなに高価な機材でも実際に使うエンジニアが使いこなせなければ、意味がありません。
このように、値段の高いプロユースのスタジオを使えば、良いサウンドで録音できる(可能性が高くなる)わけですが、最終的にはアーティストの実力次第です。メジャー流通をするようなCDであれば、商品クオリティの作品に仕上げなくてはなりませんから、やはりそれなりのスタジオ(エンジニア)を使うことになります。
◆レコーディングに必要な時間
アレンジやメンバー構成、録音方法にもよりますが、例えば、4人組のバンド編成(ボーカル・ギター・ベース・ドラム)ですと、1曲あたりの時間は、
ドラム:セッティング&サウンドチェック1時間、録音30分(数テイク録音すると仮定)
ベース:セッティング&サウンドチェック30分、録音30分(同上)
ギター:セッティング&サウンドチェック30分、録音1時間(オーバーダビングすると仮定)
ボーカル:セッティング&サウンドチェック30分、録音30分(数テイク録音)
以上を合計すると、5時間となります。
テイク数が少なく済めばもっと短縮されますし、うまくいかなければさらに時間がかかります。
これは事前にアレンジが完成していて、各パートとも練習をしっかりしている場合です。
よくアマチュアのレコーディングで見かけるのが、スタジオに入ってからアレンジをあれこれ考えたり、自分の練習をする人ですが、それだと膨大な時間がかかってしまいます。
録音をしてみると、演奏の粗が目だってしまい、イメージ通りに録音できないことがよくあります。
ライブではごまかせていた細かい部分がすべて聞こえてしまうわけですから当然なのです。
プロのCDのようなクオリティにするには、機材だけではなく、歌唱・演奏技術も大事なことは言うまでもありません。
無事に録音が済んだら、次はバラバラになった各パートをバランスよく調整するミックスダウン(またはトラックダウン)という作業に入ります。
一般的にはある程度のラフミックスをエンジニアさんに作ってもらい、そこからメンバーも混ざって微調整していきます。この作業は最低2時間はかかるとみてよいでしょう。
ここまでで7時間かかっていますね。頑張れば1日で終わりそうですが、これはほぼ最短の時間です。アマチュアの場合は、各パートの録音がスムーズにいくことは稀かもしれません。
スケジュールを立てるときには、1日に1曲録音を目安にするといいでしょう。
複数の曲を取る場合は、例えば、ドラムだけまとめて取ったりします。ドラムを全曲録った後に、ベース→ギターの順に全曲のカラオケを先に仕上げてしまえば、楽器のセッティングをばらさなくて済むため、効率がよくなります。
ここで注意が必要なのはボーカルの録音です。最も良い状態で声が出るのは、多少の個人差はあっても1日最高1時間と考えましょう。それ以降は声の質が劣化してしまいます。ライブや練習では何時間を持つと自負している人でも、レコーディングでは細かい声の変化がはっきり分かってしまいます。最高の状態で録音にのぞみましょう。
つまりボーカルの場合は、極力1日に1曲に抑えるべきです。
さらにCDなどにする場合は、最終調整のマスタリングという作業が必要です。
これは曲順を決めたり、各曲の音量・音質のバランスを取ったり、最終的な調整作業です。ここでの作業が作品のサウンドを決めてしまいます。こちらも最低1曲1時間はみておきましょう。
以上を踏まえて、予算と相談の上、スタジオを決定するとよいでしょう。
◆エンジニアさん
スタジオ選びでは、担当してくれるエンジニアさんとの相性も大事です。
こちらのサウンドイメージを具体的な音にしてくれるのはエンジニアさんですから、コミュニケーションが取りやすいほうが良いレコーディングができます。エンジニア技術の良し悪しは実際に作業してみないと分かりませんから、せめて打ち合わせのときに、話がしやすいとか説明が分かりやすいかどうかはチェックしておきましょう。
エンジニアさんとの信頼関係がないと決して良い録音はできませんからね。
レコーディングで意外と大事なので、その場の雰囲気です。ただでさえ緊張しているはずですから、なるべくリラックスした状態で作業を進めたいものです。
プロのレコーディングであれば、雰囲気作りはプロデューサーやディレクターの仕事ですが、アマチュアの場合は、アーティスト自身がプロデューサーになることが多いでしょう。ときにはエンジニアの意見も聞く必要があります。無口で怖い感じのエンジニアだと、スムーズな意見交換ができない可能性があります。
ときには冗談を飛ばしたり、優しい感じのエンジニアさんのほうが、アマチュアには良いかもしれませんね。
◆機材設備
高いスタジオを使ったからといって、必ずしも高音質の録音ができるとは限りません。何千万円もするミキサーや何十万円のマイクを使ったところで、肝心のアーティスト自身の技量が伴わなければ、意味がないのです。
よくメジャーのCDのような音質の作品を作りたくて、プロ仕様のレコーディングスタジオを大枚はたいて使ったにも関わらず、思ったような作品にならなかったという話をききます。プロのような作品を作るには、アーティストの技量と機材のクオリティーがバランスよく融合しないといけないのです。
いくら高価な機材を使ったところで、アーティスト自身が良い音を出せていなければ、市販CDのようなサウンドにはならないと考えてください。
これは歌も楽器も同じです。レコーディングは出している音をいかに忠実に記録するかという作業なので、実力以上の音にはならないのです。
設備をチェックするときには、編成に応じたトラック数に対応しているかを確認しましょう。
レコーディングできるトラック数は24〜64くらいが一般的です。パートが多かったり、たくさんのダビングをするようなアレンジの場合は、相当のトラック数が必要です。
例えばドラムだけでもマイクを10本以上立てて、バラバラのトラックに録音することが一般的ですし、ギターやキーボード、コーラスパートを重ねる場合には、32トラックでも足りなくなることもあります。
使用できるトラックが多いほど機材の値段が高くなりますから、スタジオの値段も高くなる傾向にあります。小編成のバンドなら24〜32トラックあれば十分だと思います。
また、録音形態によっては、スタジオ(ブース)の数も必要になります。各パートをバラバラに録音するのであれば、1ブースあれば済みますが、「せーの」で一緒に演奏して録音するには、人数分のブースが必要なのです。同じ部屋で音を出しては、音が被ってしまいますからね。そうなると後での修正や調整が難しく(不可能に)なります。複数あれば、ブース間は防音されていますから、メンバーそれぞれが個別のブースに入って、ヘッドフォンでモニターしながら一緒に演奏することで、後で修正が可能なんですね。
ジャンルにもよりますが、ロックなどノリを重視するのであれば、こうした一発演奏は効果があります。ダビングで録音すると、一体感やグルーブがうまく出ないことが多いからです。同時演奏をするなら、ブースがメンバー分あるかどうか確認しましょう。ただし、ブースがたくさんあるスタジオほど値段は高くなることを覚悟してください。
無料公開はここまでです。受講生の方は完全版をダウンロードいただけます。
レコーディング編
1 レコーディングスタジオを探す! | 2 いよいよレコーディング当日 |
・レコーディングとは |
・当日までに準備すること |